「脱出山脈」、「脱出空域」に続いて、今回はその続編の「脱出連峰」について感想を書く。
ちなみに、邦訳されてるのはこれで最後だ。
あらすじはこんな感じ。
「中佐に昇進したパースンはアフガニスタン空軍の顧問となり、アフガニスタン空軍とともに大震災に見舞われた村々の救助に当たっていた。救助活動中、被災地を襲撃して少年の拉致を企てるテロリストに遭遇し、彼らが少年たちを自爆テロに使うつもりであることが判明。パースンとゴールドはテロリストを追跡すべく調査を開始する」
要するに、震災に乗じて被災地から少年を引っさらおうとするテロリストとパースンとゴールドが戦う話だ。
さて、いろいろ言いたいことはあるのだけど、とりあえず本作はもう内容が"脱出"ではなくなってしまった。
前作、前々作は危機からの脱出を取り扱った作品だったけど、今回はちょっと違う。
なんと言うか、映画で言うところの"96時間"シリーズみたいな感じだ。
あの映画も、最初は"96時間"がキーワードだったのだけど、シリーズが続くうちに96時間は関係なくなってしまったはずだ(記憶が古いのでちょっとうろ覚え)。
ということで、タイトルが内容を表していないので、途中まで読んで「タイトル詐欺やんけ!」って思った。
まあそれはさておいて、俺としては一作目の「脱出山脈」、二作目の「脱出空域」とサバイバル要素を多分に含んだ設定が面白くてこのシリーズを読んでいたのでちょっと期待外れな感じはあった。
良くも悪くも、凡百の冒険小説と同じようなものになってしまった感が拭えない。
前作までの設定を見ただけで感じたような高揚感は、本作ではあまり感じられなかった。
かと言って本作が全くの駄作だったという訳ではなく、逆に前作までではあまり感じられなかった面白さもあった。
それは登場人物の描写で、この点については前二作よりも面白いと感じた。
本作ではパースンやゴールドといったシリーズ恒例の人物や、ヘリの機長を務めるアフガニスタン空軍大尉のラシド、米軍海兵隊一等軍曹のブラウントといった人物も登場するのだけど、そういった登場人物の描き方が明らかに変わった。
シリーズの今までの作品では基本的にパースンやゴールド以外に個性的な人物はあまりいなかったのだけど、今作では上に挙げた人物を始めとして彼らの個性がはっきりと表現されていた。
つまり、ざっくばらんに言うなら、読後に記憶に残る人物が多い。
例えば海兵隊員のブラウントについては、豪胆な巨漢海兵隊軍曹であるだけではなく子供思いの一面もある優しいやつ、と言った感じに。
また、パースンやゴールドについてもその性格や個性が作品の要所で描かれていて、二人の人物像が把握しやすくなっていた。
今までの作品(特に「脱出山脈」)では、主要人物なのにどこか脇役のような扱いを感じさせるような冷めた描写で、登場人物としての個性が薄かった気がする。
というわけで、小説の面白さを決めるのは作品の舞台設定だけではなく、人物の描写も重要な要素だということを改めて感じるような一冊だった。
さて、これで邦訳されている三冊を読み切ってしまった。
原作はまだ何作か発刊されているらしいのだけど、本シリーズもカイル・スワンソンシリーズに引き続き、またまた早川書房の悪癖である"翻訳打ち切り"の憂き目に合ってしまったようだ。
(カイル・スワンソンシリーズ↓)
やれやれまたかよ、と思わずにはいられないのだけど、翻訳されてないものは仕方がないので、諦めてまた別の小説を探そうと思う。
他にも面白かったのに翻訳が打ち切られてしまった小説がいろいろあるし、もういっそのこと英語を勉強して原作にあたった方が良いのかもしれない。
ともあれ、しばらくは日本語で粘る予定だ。
次は何を読もうか?
(シリーズ過去作品↓)d-nemuo.com