「脱出山脈」(著:トマス・W・ヤング)という小説を読んだので感想を書く。
あらすじは「テロリストの捕虜を輸送中の輸送機が撃墜され、百年に一度と呼ばれるほどの厳しいブリザードが荒れ狂うアフガニスタンの険しい山脈地帯に不時着する。そして追手の敵が追ってくる中、航空士と通訳が捕虜を連れて敵地からの脱出を図る」といった感じ。
あらすじからもなんとなく想像できる通り、本作の敵はテロリストだけじゃない。
自然も敵となってくる。
ブリザードが吹き荒れるせいで救援を呼ぶことができないし、輸送機は墜落して装備もままならない状態なのでその寒さとも戦わないといけなくなる。
そして、険しい山々は逃走の足を鈍らせる。
まさに絶体絶命の状況だ。
雪が吹きすさぶ中、険しい山々を逃走するというのが、以前に読んだ「北壁の死闘」という小説をどことなく連想させる。
もっとも、あれは山岳地帯を徒歩で脱出するのではなく、山そのものを上って行く登山小説みたいな感じだったけど、自然との戦いという点では似ている。
さて、話が脱線したので再び話を「脱出山脈」に戻そう。
これの舞台はアフガニスタンの山脈という広大なエリアではあるけど、ある意味ではアフガニスタンの山脈という限られたエリア内での出来事だとも言える。
限られたエリア内で敵から逃げ、あるいは敵を狩る。
なんというか、映画で言うところの「ダイ・ハード」のような感じだ。
敵の待ち受ける危険な檻の中に主人公を放り込んで戦わせる、という点では似ている気がする。
また本書ではその"檻"自体も危険なものとなっていて、人間と自然の両方と戦わないといけないという過酷さがある。
環境と戦う系の作品は最近あまり読んでなかったので、新鮮な感じがして面白かった。
また、本書には主人公とも言える人物が2人ほどいた。
一人は輸送機の航空士パースン少佐で、もう一人は捕虜の通訳であるゴールド軍曹だ。
この2人がなかなか良いコンビであり、性格も対照的で面白い。
ちょっと頭に血が上りやすく感情的なパースンと、冷静沈着でパースンのブレーキ役を務めることもあるゴールド。
そしてその能力もなかなか個性的で、より一層キャラクターとしての存在感が増しているように感じた。
パースンはアウトドアのサバイバルスキルで、ゴールドはアフガニスタンの言語と文化の知識。
特にパースンのスキルは面白いと思った。
序盤は、空の専門家である航空士が航空機の外に出たら一体何ができるのだろうか、と疑問に思っていたのだけど、まさかこんなスキルを隠し持っていたとは。
航空士という役割とはまったく関係ないスキルを炸裂させてくるとは、これは驚きだ。
ともあれ、この二人がお互いをフォローし合いながら、敵地脱出を図る。
という感じで、なかなかにスリリングなサバイバル小説だった。
ちなみに、これはシリーズ化されていて三作品ほど邦訳されているのだけど、次回作では航空機のハイジャックを取り扱った作品になっている。
シリーズ二作目に来て、遂にパースンの本領が発揮されるという感じだ。
俺はもう既にシリーズ三作全て読み終わっているのだけど、本作に負けず劣らずというどころか、シリーズを通して二作目が一番面白かったと思っている。
ということで、次回作「脱出空域」についても、また時間を見つけて感想を書きたいと思う。