直属の上司が最近また無理難題を申し付けてきた。
こいつ、手強すぎる。
で、何を今回は言ってきたかと言うと、周囲ともっと雑談しろということだ。
10月に移動してきた今の部署にも同期が多少いるのだけれども、上司曰く、さすがに同期とは多少は会話しようよ、とのこと。
いや、無理じゃね?
俺、在宅勤務中。
自分の部屋で一人でただ黙々とキーボード叩いとるだけやし。
隣には誰も、いない。
俺は一人だ。
職場に出勤してたときですらそういった業務外の会話はあまりしていなかったのだけど(同僚が嫌いというよりはただ単純にコミュ障に依るところが大きい)、在宅勤務で物理的に隔たった今、コミュニケーションの難易度は一気に跳ね上がった。
業務上のコミュニケーションですら難しいと言われる在宅勤務において雑談をするのは、それこそ針の穴にラクダを通すより難しい。
チャットツールでいきなり同僚に雑談を吹っ掛ける勇気のある者がどれほどいるのだろうか?
少なくともそんな勇気、俺にはない。
もしそのような人間がいたら、俺はそっと心の中でその勇者のことを称えたい。
出社していたときでさえ他人に話しかけるのは業務の会話ですら並々ならぬ精神力を要するのだけど、在宅で、しかも業務と関わりのないことを話すなどといったことが一体どうしたらできようか?
さて、上司はただ「同期くらいとは会話しようよ」と言ったわけなので別に業務上の会話でも良さそうなのだけど、その同期と俺は業務において全く別の作業を割り振られているので接点はほぼない。
接点と言ったらそれこそ、所属が同じ、くらいしか思いつかない。
なので、業務上の会話はあまり望めそうにない。
いきなりチャットツールで「最近仕事の調子はどうよ?」とチャットを投げれるほどの間柄でもないし、多分黙殺されそう。
後々、「あ、忙しくて対応できなかった、ごめん」とかなんとか言われて。
まことに惨め極まりない。
かと言って、雑談を吹っ掛けたところで同じ末路を辿るのは明らか。
まさに雪隠詰めだ。
そもそも他人と何を話せば良いのだろう?
これこそが問題だ。
雑談と言っても、一体何を話せば良いのだろう?
俺以外の大半の人間はそういったことをなんともなしに息を吸うようにやってのけているのだけど(少なくとも俺にはそう見えている)、俺にはできない。
会話しようと思っても、そもそも話題というものが思いつかない。
仕事のような要件が定まっているものならまだわかるけど、雑談のようななんでもありのフリートークとなると、一体何をしたら良いのか途方に暮れてしまう。
これはまるで、からっぽのバケツをひっくり返して水を出そうとしているかのようだ。
話題と言うのは、一体どこから湧いてくるのだろう?
いや、俺はその場所を知っている。
話題と言うのは、常日頃から興味を持って社会に接することで生まれてくるものなのだ。
俺は普段から家に引きこもって小説を読むかゲームをするか、そしてたまにブログを書いたり読んだりして、あとは仕事くらいしかしていないので、俺に話題がないのは話題の源泉に触れていないだけなんだ。
かと言ってゲームや小説以外に興味を持てることもあまりないし、あとはうまいものを食ってあったかい布団に潜って気分よく寝られればそれで良い。
そして朝日に頬を撫でられ朝起きることができれば、それでもう満足だ。
もはやどうにもならない気がする。
俺はつまらない人間だ。
俺がつまらない人間だからつまらない生活をしているのか、逆につまらない生活をしているからつまらない人間になってしまったのか、それは分からないし分かったところでどうにもならない。
そもそも、俺はこのつまらない生活にそこまで不満は持っていない。
味気ないこの生活の中で、ゆるやかに行けていければそれで良いとさえ思っている。
さて、話を脱線させすぎて一体何をどう話したら良いのかわからなくなりかけたが、そう、雑談だ。
在宅勤務における職場の雑談について話していたんだ。
結論は出た。
俺はつまらない人間だから雑談はできないし、仮にそれをしたところで相手に楽しみを与えられず、結局、徒労感だけがお互いに残る。
もうこれで良いじゃないか。
とは言ったものの、上司にこれをぶつける勇気はさらさらない。
それができるほどの精神を持っていたら、俺はもっと社会をうまく渡って行けただろう。
だから、また同じことを言われたら、いつも通り、風にたゆたう木の葉のようにゆるりとやり過ごしていこうと思う。